石島公認会計士事務所
公認会計士・税理士
石島 慎二郎
「そうなんです、これがまたおもしろいんですよ!ぜひじっくりお読みになってくださいね。」
書店でレンは新しい常連客と談笑している。その様子を、ヤマモトは満足そうに眺めていた。
「一時はどうなることかと思ったが……ちゃんと金も返すし店もめでたく復活、サワムラ孫もやるじゃねぇか。」
あれからしばらくして、レンは再度店の大改造を行った。
今度は街中で集めた声をもとに、地元客が興味を持っている本を中心に品ぞろえを一新したのである。
少し時間はかかったものの、次第に客足が戻り、新たな常連客も増え定着してきた。
シブサワと最初から普通に会話ができていたことに表れているように、
まったく人見知りしないレンの特性も相まって、店長との話を楽しみにするファンが増えてきたのだ。
本を大きく入れ替えることになったが、モトムラから仕入れた洋書の在庫は、
店頭でイチノセが売りさばいている。
同じ学校の英語科には受けが良いらしく、イチノセがうまく口コミを広げているようだ。
「前ほどの爆売れはないけど、これがサワムラ書店のあるべき姿なんだよな。
客層は地元客が中心、それなら地元客に愛される本屋づくりが大事。
シブサワさんが、顧客が真に求めるものを見極めろと言っていたのは、こういうことだったんだな。」
レンはしみじみと思った。
その様子を、頬に手を当てて遠巻きに見ながら女性はつぶやいた。
「そろそろ今回は潮時かしらね。それにしてもあの子……ふふ、やるじゃないの。」
いつもの艶っぽい笑みを浮かべ、モトムラは周囲の視線を集めながらその場を離れていった。
「ついに決算もクライマックス、あとは税金の記録だけだな。」
書店奥でレンは姿勢を正し、感慨にふけっている。
「税金だけは税理士さんに計算してもらったけれど……この記録方法は、っと」
相棒のタブレットで検索し調べる。
「ふむふむ。今回の1年間で税金は計算されるけど、支払自体は次の会計期間になってしまう、
だから『“未払”法人税等』にしておくというわけか。けっこう単純。」
レンはさらさらっと書き込んで、ふぅっと一息ついた。
「あとは今までの簿記の記録を、損益計算書と貸借対照表に写していけばOKだったよな。
いよいよこれで……。」
レンはシブサワに教わったことを復習しながら、決算の最終作業に入った。
「おおお……ついに完成したぞ。損益計算書の利益はプラスになっているし、
貸借対照表の純資産の部分、繰越利益剰余金もプラスになってる。
それに、一番下の合計も左右で一致している!ということは、間違いなくできているってことだったよな。
……やりましたよ、シブサワさん!」
レンは、閉じられたままの簿記の本に向かって喜びを爆発させた。
「こうして見てみると、何にどれだけのお金がかかっているのかがよくわかるよな。
次は利益をもっと多くしてやろうって気持ちにもなる。
簿記って本当にありがたいものなんだな、やって良かった!よし、これで堂々とシブサワさんに報告できる。
この前のお詫びもちゃんとしなくちゃ。」
レンは簿記の本に手を伸ばすが、書店内に一人の女性が立ちすくんでいるのを目にすると、
開きかけた本から手を引っ込めた。
「もうひとつ、しっかりしなきゃいけないことがある。」