簿記

経費と手紙作戦 7

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石島公認会計士事務所
公認会計士・税理士
石島 慎二郎

シブサワは居間で仰向けになるレンに向かってニコニコしながら言った。

「ところでレンよ、あの娘に……。」

「いやいや、まだ知り合ったばかりですし、何にもないですよ。」

すぐさまレンは否定する。

「いや、だがおまえさん確かに……。」

「シブサワさん、そんな急なことはありませんよ、あり得ません」

「ワシは確かに封筒を渡しているのを見たのじゃがなぁ。あれは日当じゃろう?」

レンは自分で考えていたことと違う内容にひとり赤面する。

「あ、そのことですか……はい、バイト代です。」

「ならばそれも記録せねばならんの。」

「それなら、現金で給料を10,000円払ったから……現金が増えるときは左側、

ということは減るときは右側かな?給料は費用になると思うし、こうかな?」

「ふむ、わかってきたではないか。費用にはさまざまなものがある。

給料のほか、おまえさんが店頭販売のために買った小物も費用じゃ。

『消耗品費』じゃな。他にも、水や電気を使うための『水道光熱費』もある。

もしあの娘と逢引するために車に乗れば、『旅費交通費』じゃの。」

「シブサワさん、やっぱり僕とイチノセさんのこと、そういう目で見ているのでは……。」

レンの疑念の目にかまわず、シブサワは続ける。

「費用というのはさまざまあるのじゃよ。今の内容で書きだしてみよ。」

レンは不満げな顔で書きだした。


「そうじゃの。ではもうけは如何ほどか?」

「えっと、収益は売り上げの100,000円だけ。

費用は仕入、給料、旅費交通費、消耗品費、水道光熱費の合計だから…96,000円、

差し引きで4,000円ですね。

ええっ!10万円も売り上げたのにもうけはたった4,000円??」

「経営がいかに厳しいか、わかるであろう?そう、費用はいろいろとかかる。

書いてみると、事実が明白となるわけじゃ。だから簿記は大事なのじゃよ。」

「そうですね、これを知らずにいるなんて恐ろしすぎる……。」

「そのとおり。簿記を知るべきは経営者のみではない。

経理はもちろん、営業だろうが技術だろうが、会社の状況を知らなくてもよいというわけはない。

皆、簿記の知識はもっておくべきなのじゃよ。」

「なるほどですね。ようやく最初にシブサワさんが言っていた意味がわかってきた気がします。
本当にがんばらないと、簿記も、経営も。」

「その心構えが重要じゃ!ところでレンよ、あの娘に便りを出したらどうじゃ?」

「な、なんでこんな真面目な話から急に!!」

不意打ちを食らったレンは動揺が隠せない。

「なに、これも真面目な話じゃよ。逢引してくれるよう便りを出せばよかろう。

経営と同じ、打ち手は早く的確に、じゃな。

もっとも、逢引の交通費は会社とは関係ないから経費にはならんがな。」

「逢引って……デート、ってことですよね。便りってのも手紙ですか。

今のご時世、LINEの交換からだと思うんですけど……。」

「らいん?線がどうこうの話をしているわけではない。

今は逢引の便りの話をしておるのじゃ。気持ちを伝えるには便りが一番じゃからの!ワシも若いころは……。」

シブサワが自慢げに昔の話を始めたがレンは聞き流している。

一瞬わかった気がしたけれどシブサワさんとはやはりどこかで会話がかみ合わない――。
「しかし、今のご時世だからこそ、あえて手紙ってのもいいかもな。

デートというか、バイトの子のことをもっとよく知っておくことは大事だし。

きっと簿記を知るのと同じくらい大事なことだよな、うん。」

レンは自分に言い聞かせるように、本気で手紙を書くことを考え始めた。

【シブサワの補講】

「ちなみに、ここまででおぬしはもう損益計算書を作ることができる。このようにするだけじゃ。」

「シブサワさん、これだけでいいんですか?」

「これだけでいいのじゃよ。最初に言ったとおり、

決算書を知るにはまず簿記を知れというわけじゃが、簿記がわかればこのとおり決算書も作れてしまうわけじゃ。」

「おお…なんだかとても賢くなった気がします!」

「レン、おぬしは実際成長しておるよ。最初はさっぱりだったのじゃからな。」

「それは嬉しいです。あれ?でも、収益と費用以外の現金や買掛金はどうなるのですか?」

「それは貸借対照表にいくことになるのじゃが、おいおい説明していくことにしようかの。」

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