ビジネス
 

高齢者利活用による生産性向上

この記事は約5分で読めます。

中小企業診断士
梅北浩二

 高齢者の持っている企業人として得た知見は、自ら属した企業に限らず多様な社会で活用されることで、現存する企業や社会の生産性向上に資すると考える。今回は、高齢社会における利用者と担い手との関係で最も人材の育成や確保で課題の多い介護サービス業界での高齢者利活用により事業体の生産性向上策について述べていきたい。

1.介護サービス事業における生産性向上ガイドラインの概説

先ごろ、厚生労働省は介護サービス事業における生産性向上に資するガイドラインを発表した。
(1)目的

今回開示されたガイドラインの目的は、生産性向上に向けたノウハウの普及である。具体的には、①実際に生産性向上に取り組む介護事業者を支援するため、ガイドラインを作成し、介護サービス事業所における生産性の向上に取り組むためのノウハウの普及、②効果的な普及のため、介護事業者団体等にガイドラインを配布し、横展開を支援する、となっている。

(2)介護サービスにおける生産性向上のとらえ方

 1人でも多くの利用者に質の高いケアを届けるとい介護現場の価値を重視し、介護サービスの生産性向上を介護の価値を高めることと定義しているガイドラインは、人材育成とチームケアの質の向上、情報共有の効率化を取り組む意義としている。さらに上位の目的にとして、「介護サービスの質の向上」「人材の定着・確保」としている。

図表―1介護サービスにおける生産性向上のとらえ方

出所:介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン厚生労働省

(3) 生産性向上の取組

 ガイドラインでは、生産性の取組として、①職場環境の整備、②業務の明確化と役割分担、③手順書の作成、④記録・報告様式の工夫、⑤情報共有の工夫、⑥OJTの仕組みづくり、⑦理念・行動指針の徹底の7つの項目を上げて、具体的な内容に触れている。

2.具体的な高齢者の利活用

(1)介護サービス事業者の業務
 介護サービス事業者の業務は、基本動作、ADL,医療、アプローチ関連、ひと・コミニュケーション、その他業務、リーダー業務、書類・記録関連に分けられ、43の業務を専門性重視の高度な業務、短期間の研修で対応できる専門的な業務、マニュアル化等で対応できる3つの業務区分となっている。

(2) 取組区分

  介護サービス事業者にとっては、全業務を介護人材により担うことが先の上位目的を達成することになるが、現実は慢性的な人材確保・育成困難がある。 
   現在、マニュアル等での対応業務については、介護保険等の利用により人材確保策が提供されているが、介護現場では、高度な専門性や一定程度の専門性を有した人材確保や育成を最も必要としている。そこで、今回は、一定の研修による人材育成を図り、外部人材の利活用で介護サービス事業者の業務区分と担い手の育成・確保策を解決する高齢者利活用事例を紹介する。

(3) 退職者・退職予定者等の想い

 最近の退職者等の生涯現役社会実現に向けての男性の意識調査によると、一般的なサラリーマンの退職前後の状況・思いとして、①地域で何か貢献したい(同地域に入っていいかわからない、 ②まだ現役並みに仕事をしたい、③仕事の時間はゆっくりしたい(毎日出なくてもよい)、④まだまだ勉強意欲はある、⑤昔の仕事のノウハウを活かしたい、⑥少しこずかいが欲しい、⑦人の役に立ちたい、⑧楽しく、ゆっくり喜んでもらえるようなことがしたい、⑨同年代だけでなく若い人や現役の人や子供たちとも接したいがある。しかし、現実は、①地域には溶け込めない、(どのように地域に入っていいかわからない)、②シルバーセンターの募集の仕事が自分の経験が生かせない、③仕事がない(毎日家にいる、近くの公園にいく)④だんだんと勉強意欲がなくなる、⑤昔の仕事の話をするとイヤがれる、⑥年金でほそぼそと暮らしている、⑦邪魔にならないように心がけている、⑧暇、話をしない、テレビをみても面白くない、⑨会うのは同年代といった状況にある。  しかしながら、多くは、①健康ですごしたい、②少し小遣いが欲しい、③前向きに考えて活きたい、④社会のお役に立っていると実感したい、と思っている。

(4) 業務開拓

 介護サービス事業者の業務区分のなかの「短期間の研修で対応できる専門的な業務」と「高齢者の意識」をかけわせた職務の開拓により、現在介護サービス事業者に従事している人材の負担軽減と時間軽減できる職務つぃて「レクレーション活動」と「医療補助」「ADL関連」「コミニュケーション強化」などを実施する業務を外部高齢者等生涯現役人材に委託することで専門性が発揮されることで生産性が高くなる。一方現状の介護担い手の全業務対応型から機能分化型の業務対応によって、既存業務の高度化、働き方改革の実践、事業の拡充などを通じて、介護サービスの質的確保、人材の確保・育成が可能となる(図表―2参照)。

図表―2 業務の機能分化による生産性向上

(5)具体的事例紹介

 非営利活動法人メディカルケア協会は、地域人材不足・高齢化を打開し、セカンド・サードキャリアへの魅力的な受け皿づくりを目的に定年後の新たな就労機会を健康寿命延伸に向けた取り組みとして実践する事業を行っている。その内容は、①地域の定年前後の企業人向けの健康寿命延伸プログラム(食べる力の向上に着目した、4領域「口腔ケア、摂食嚥下リハビリテーション、低栄養防止、地域連携」から成る健康づくりをシニア自身の参画により地域活動として展開)を大学、医療機関等とともに開発・提供し、企業人の社会参加機会周知活動、②地域活動の担い手づくり、③本事業を通じて職務・機能分化により、専門職の負担を軽減し、人材不足解消のための人材育成・確保スキームを提供している。

BANNER リンク
タイトルとURLをコピーしました
Close Bitnami banner
Bitnami