㈱ブイラボ代表取締役社長 浅井清孝
Ⅰ《はじめに》
IoTの進展とともに様々な製品にITの技術がとりこまれるようになってきました。IT技術を組み込んだ商品の開発やIT技術を駆使し業務やサービスの効率化等、もはやIT技術無しに自社製品を作り出すことは困難になってきております。
そこには色々な課題が生まれてきますが、その一つがITの品質というものであり、大きなウエイトを占めるようになってきております。
「 IT組込み製品を開発しているが不具合が絶えない!」(製品を供給する企業)や「AIを活用して合理化を行っているが、AIが出した答えは正しいの?」(システムを供給される企業)という経験をされている方は少なくはないと思われます。また、ジャンルは違いますが、セキュリティ関連の懸念もさらに増大すると思われます。
このような品質を確保するには『IT検証』という技術が必要になってきます。しかしこれが課題として顕在化したのは1990年代であり、歴史は浅く技術の蓄積はまだまだの状況であります。ましてや効率化に向けた活動は山のように残されております。
結論を先に申し上げますと、専門業者の活用が最も効果につながる方策と考えます。
ここでは、能力も専門分野も千差万別なIT検証専門業者の選別策と発注するに当たっての必要最小限の留意点を紹介いたします。
Ⅱ《IT検証業務に関する説明》
1、IT(Information Technology)検証とは
学術的な定義はされていないと思いますが、現実に存在しており勝手に定義させていただくと「ITを活用している製品に対し、利用者(第三者)の立場に立ち、その動作確認を行った上で、品質を保証する作業」
2、IT製品の作成プロセス
Ⅲ《第三者検証とは》(資料1『検証事業を取り巻く環境の変遷と今後』参照)
1.IT検証専門企業
1)2000年代になりITが本格的に製品へ組込まれるようになってきました。これに伴いIT検証専門企業が誕生し、株式公開が続きました。
EX) (株)ベリサーブ、ポールトゥウィン・ピットクルーホールディングス(株)、(株)シフト等、製品を供給する企業側を支援する検証企業が先に育ってきている
2.第三者説明責任
2010年1月 某社が米国議会から“ハイブリット車の異常発進による運転者死亡事故”を糾弾されました。その理屈は
「開発企業が「製品の品質に問題無い」と主張するのは当たり前。第三者がそれを説明できるか!」 というものでした。結果として、米国NASAにその品質の正当性を説明してもらえましたが、 300億円の支払いと1年という年月がかかりました。大きな機会損失が発生しました。
3.完璧な品質を作り込めないIT製品
理論的にもましてや経済的にも完全な品質を作ることが不可能と言われるのがIT製品です。グローバル化が進む世の中において、「この製品は国際標準に基づき検査を行っている」ということをこの製造に携わっていない第三者が説明出来るようにしてゆくことが必要になります。つまり製品製造者から資本面においても独立している第三者検証機関の検証を受けることと考えます。その場合においても発注側は最低限のIT検証知識が必要になってまいります。
そのためには
・検証標準工法(用語、作業フェーズ、アウトプット形式等の統一)
・検証ツール種別とその機能 ・基本検証理論
等についてはあらかじめ理解してゆく必要があります。
Ⅳ《IT検証技術の工業化に向けての変遷》(資料1『検証事業を取り巻く環境の変遷と今後』参照)
1.IT業界の標準化(業界標準)
1980年代までのIT業界は垂直統合の中で商品を供給しておりました。家電の世界を日本に奪われた米国はこの対抗策として水平分業を進めました。ここで生まれたのがIntel社、Microsoft社、DEC社、Dell社のような企業です。これによりユニバック社やIBM社の製品に替わり、Microsoft社のWindowsが業界標OSとなり(1993年)、一般消費者にITが浸透してまいりました。そのような中、システムとしての品質保つために、各社の製品開発に携わらない第三者の検証機関の必要性が顕在化してきました。
しかし、当時は未だ『勘と経験』で行う検証作業でありました。
2.理論化、工業化への進展
1)1990年代まで各社様々な工法で製品の検証を行っていた。
2)2000年に入りIT検証専門企業の株式公開、資本の中立が始まり、事業として世の中が認知し出した。
3)システム検証セミナー(ベリサーブ社主催)にて『失敗モード活用理論』(中央大学中條武志教授)が発表される。不具合発生の統計的傾向分析と発生予測化への 手法が広まり出す。
4)検証事業の産業化の必要性から、IT検証産業協会(https://www.ivia.or.jp/)が2005年に設立される。主に技術者の育成、業務の標準化を進めている。
①標準工法
『IT検証標準工法イド』Ver2.0(2019/7)
『国際標準規格によるソフトウェアテスト解説』Ver1.0(2015/7/10)
②技術者の実務力認定制度
『IT検証技術者認定試験(IVEC)』レベル1~レベル5 年2回開催
5)独立行政法人情報処理推進機構(IPA)より『つながる世界の品質確保に向けた手引き』(2018/6/4発刊)
3.自動化
1)動的検証ツール
各コンピューターメーカーが独自でのツールを開発していたが、検証データやシナリオの検証に手間取り、効率化が発揮されるのは限定された業務のみであった。
2)静的解析ツールCoverity(Coverity社)日本に進出(2003年)
当時としては画期的な品質解析ツールであった。メモリーリーク、バッファオーバーフローの発見に限定されていたが、人間に比べ160倍の生産性を上げた。現在では、その機能も増え、競合製品も数多く出回っている。
3)ロボット
動的検証ツールの一つではあるが、携帯電話の開発が最高潮であった2000年頃に出現した。ソレノイドを活用し人間の指の動きを代行した。同じく、検証データやシナリオの検証に手間取るという課題を持つ。
4)AIの活用(検討段階)
実用化されている情報はまだ無い。
4.考察
先に述べたように、IT検証事業の歴史は浅く、まだ「その手法をどうするか」を論じている段階であります。ましてや効率化に関しては、家電や車載のハードウェアの世界に比べ、その1割にも満たぬのが現状であります。その技術を自社にて育て維持するか否かは全体最適を考慮し検討すべき内容と考えます。
《提言》
1.IT検証専門業者の活用
IT検証専門企業が育ち出してきた今,品質の向上や作業の効率化を考慮すると、このIT検証専門企業を活用することが効果的であると考えます。
“提言の根拠”
・ITと検証の両方の見識を持つ技術者の育成、保持し続けるコスト
・第三者説明責任を果たすための、資本からも独立する検証組織作りの困難さ
・機材や検証環境等を独自で負担するコスト
2. IT検証業務を外注するにあたっての留意点と責任
1)発注側の検証知識の育成
最低限作業標準レベルは理解しておくこと
(参考:『IT検証標準工法ガイド』Ver1.1(2014/4) )
2)専門業者の(様々な)能力の把握
・車載、家電、通信、医療機器等、多岐に渡る分野のどこを得意とするか!
・業務を進める上での契約モデル
3)技術者の能力の把握
下記技術者認定の保持を参考にすることを推奨する。
・IVEC(IT検証産業協会):検証実務を重視した技術者認定制度
・JSTQB ISTQBに準拠した技術者認定制度。学術面を重視
3.コンサルタント企業の活用
検証企業の活用や社内にIT検証組織を設置するにあたり、検証の産業化を進めている(株)ブイラボ(V&Vビジネスモデル研究所 )のような検証コンサルティング会社の活用も一考と思われます。