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M&Aの利活用による生産性向上

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ライジング・ジャパン・エクイティ株式会社
パートナー 坂内 克行

 世界で見た日本の生産性は先進国の中で低い。これまで、優秀な労働力が安価に大量に雇えたことから、生産性向上はひっ迫した課題ではなかった。一方、先進国を始め他国は優秀な労働力を安価で大量に調達できなかったため、必然的に生産性向上が優先事項となった。日本も遅ればせながら、優秀な労働力がひっ迫してきた。また、グローバル経済となり国内の企業の多くが生産性に優れた他国の企業と競争をせざるを得なくなっていることからも生産性向上は重要な経営課題である。

 省力化投資の実施や優秀人材を確保するためには、自社事業の拡大発展が不可欠である。市場自体が成長していた過去では、その成長に合わせ自社の事業も徐々に大きくできた。しかしながら、ゼロ成長に近い最近の多くの市場(冷めた市場)ではそのような自発的な成長もなかなか望めない。一方で、多くの「冷めた市場」の中でも事業規模を年々増している成長企業(熱い企業)があるのも確かである。建設、食品、自動車、電子部品、外食、小売業、人材派遣等など、そのような市場の例は枚挙に暇がない。

 「熱い企業」には事業規模が大きくなるに従い、社員1人当たりの売上も増え、優秀な従業員に十分な給与を払えるから、辞めないし、人材不足の中でも採用ができる。優秀な人材が集えば研究開発や営業も進むので商品開発も促進され、販売も強化される。このため、売上成長率や利益率も必然的に高くなる。逆に、事業規模が小さい企業は、社員も集まらず、高齢化が課題であると聞く。もはや社員の若返りや新規事業など期待もできない。  
「冷めた市場」では熱い企業に圧され、事業縮小や廃業に追い込まれていく。

 「冷めた市場」で、「熱い企業」になるにはどうしたらよいのか。そのためには、自社の中で生産性の高い競争力のある事業や商品に特化・発展していく必要がある。多くの企業では、複数の事業・子会社を持つ。そのすべての事業・子会社が優等生ではないだろう。たいていの企業にはお困りごとの事業、子会社を持つ。お困りごと事業まで十分な手間をかけることができないのなら、そういった事業は価値のあるうちに売却することも考えたい。最近はM&Aも盛んなので過去に比べると事業売却・買収も随分と容易になったはずだ。事業売却を考える際には売却される従業員はより強いところへの異動になるのだから、気に病む必要はない。逆に強い事業は事業買収にも挑戦して、より生産性の高い事業に育てていくべきだ。限られた経営者のリソースも強い事業に集中できる。企業版断捨離がM&Aと言える。我々ファンドでも投資先の商品・事業の断捨離をまず優先的に考え、主力事業の幹を太くしていく。

 M&Aで手が回らない事業は譲り渡し、強化したい事業を譲り受ける。そうすることで貴社の強い事業はより生産性が高くなり、競争力が増す有用な手法であると考える。
 世の中に万能薬はないようにM&Aもノーリスクではないので、譲渡し(売却)は大胆に行ってもよいかもしれないが、譲受(買収)は慎重に検証して決断する必要がある。
 買収時の留意点をいくつかの例を挙げると、対象とする会社のトップの性格をよく見極めること。多くの企業はトップの性格に似る。そのうえで自社との事業面、組織風土での相性を確かめてほしい。どうしても相容れない企業同士が結びつくと、トラブルが発生し、せっかくのM&Aが台無しになってしまうこともある。また、事業承継がらみで企業を譲り受ける際は、経営者の注意が既に行き届いていないことが多い。その企業に潜在的なトラブルがないか慎重に見極めて欲しい。可能性が場合はそれを受け入れられるほどのものか確認する。さらにその企業にしっかりと任せられる責任者がいるのか、いないなら自社から任せられる者が出せるのかもしっかりと考えてほしい。買収企業は機械ではなく、人間の集団です。しっかりと覚悟をもってフォローする必要がある。
 もし、M&Aの経験が少なく、不安を感じるようなら、専門家の利活用も検討なさることをお勧めする。

※本内容は坂内個人の見解であり、所属組織を代表するものではございません。

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