日本販売士協会登録講師、1級販売士、中小企業診断士 城 裕昭
マーチャンダイジング・サイクルとPDCAサイクル
次はどのような店づくりにしようか、どんな売り場づくりにチャレンジしようか、お客さまの喜ぶ姿を想像しながら企画を考えるのは、楽しいことである。そのためには、企画する前にきっちりとしたコンセプトを持つことが重要と言える。コンセプトというと難しく聞こえるが、要は、お客さまは誰か・提供する商品サービスは何か・提供方法はどうするのか、つまり、誰に・何を・どのように、というところをしっかり考えるということであって、決して難しいことではない。前回のコラムでは、誰に~何をという辺りを中心に、事例をもとに述べた。今回は、「何を」というところにあたる「商品」、言い換えれば「品揃え」の側面から考えてみたい。
店舗形態に拠るところもあるが、商品は、計画→発注→仕入→販売→在庫→発注・・・というマーチャンダイジング・サイクルをぐるぐると循環させるのが一般的だ。われわれ販売士は販売という名前が付いてはいるものの、リテールマーケティング全般を理解し、実践するべき立場にある。どのような商品を取り扱って、どのような商品の取り扱いをやめるのかまで、総合的に考えていかなければならない。これは即ち、商品販売に関するP(プラン)→D(ドゥ)→C(チェック)→A(アクション)・・・というPDCAサイクルを、正しく回すことに他ならないのである。
「売れ筋」商品と「死に筋」商品
「売れ筋」商品、「死に筋」商品という言葉がある。売れるという言葉の反対語が死ぬということ、非常にシビアな表現ではないか。昔、仕事仲間と何故死ぬなんて言うのだろうと、話し合ったことがある。丁度バイヤーの先輩が居て、彼が言うには、「仕入れたけれども残念ながら売れないものは、ずっと商品棚や倉庫に在庫として置くことになる。そうすると売れるものを置くべき店頭のスペースが死んでしまう(機会損失)。結局値引き販売するのがオチで、販売員のモチベーションも下がる。そもそも在庫というのはお金が形を変えて店頭にあるものだから、使えないお金をたくさん抱えていると資金繰りにも影響して、結局店が死んでしまうからだ。」と教わり、納得した経験がある。因みに英語では、slow moving itemや、a cold- selling articleと言うようである。
殆どの商品にバーコードが付いている現在、POSシステムを活用すれば、単品管理も容易にできる。「売れ筋」商品の拡販と「死に筋」商品の見切りのためには、ABC分析が良く使われている(ABC分析は、販売士ガイドブック(応用編)②マーチャンダイジング P.118-を参照のこと)。要は、多い順に単品やSKUで並べ、累計比で上からクラスに区切っていくものだ。大体上からA、B、Cの3つのクラスに分けて、それぞれのクラスごとに対処方法を考えていく。例えばAクラスの商品は棚のフェースを増やす等してもっと貢献できるようにする。Bクラスの商品はプロモーションを掛けるなどして、Aクラスに引き上げ、育てていく。Cクラス商品の中の幾つかは、棚替えなどの商品選定の際にカットするようにしていく。テキストでは例として、上から75%をAクラス、そこから95%をBクラス、それ以降をCクラスとしているが、この線の区切り方は一定ではなく、70%と90%で区切ったり、店舗状況に合わせて考慮すれば良い。 ※統計学上、正規分布の標準偏差では、1σ以内の70%と2σ以内の95%で切るという考え方が一般的である。
尚、売上ABC分析を行う際に気を付けないといけないのは、POSシステムで上がってくるデータは、あくまで売れた商品のデータであるということだ。「死に筋」商品として本当にカットしなければならないのは、期間中に全く売れなかった不動の商品(Zクラス)であり、これは販売データには表れない。店全体の商品在庫と突き合わせる必要があるため、在庫管理をきちっとしておかなければ正しい情報が得られないこととなり、注意が必要である。また、ABC分析からみた「売れ筋」商品というのも、あくまでこの店舗で売上が好調な商品であることを頭に入れておくべきだ。世の中にはもっと売れている、消費者に受け入れられている商品はあるはずだ。例えば、日本経済新聞社が提供する「日経POS情報」や、その他民間事業者が提供する「流通POSデータベースサービス」などの他店の「売れ筋」商品データと突き合わせながら、また常に外部の情報に気を配りながら、自店の品揃えを考えていくことは重要である。こういったデータを活用することは、限られた店舗スペースや労働力の有効活用に繋がり、結果的に店舗の生産性を高めることになるのである。
このABC分析は店舗の状況を知るための基礎的な分析方法、考え方であり、いろいろな使い方がある。売上金額順に並べることで、「売れ筋」商品が分かるのは前述のとおり。その他にも、利益金額順に並べることで、利益貢献度の高い商品を見える化することができる。販売数量順に並べることで、販売数量が落ちてきて不良在庫になる可能性のある商品をチェックすることができる。最終販売日の新しい順に並べることで、少し前まではよく売れていたが最近動いていない商品が分かる。これがslow moving itemに他ならない。店舗のコンセプトに合うような指標を選んで、使っていく必要がある。
商品の関連性と「見せ筋」商品
売り場にはいろいろな役割の商品があり、単品それぞれだけでは評価できないものもある。例えば、店舗で売上ABC分析を行いCクラスの商品が見つかったとしても、実はAクラスの商品と強く結びついているかもしれない。その場合、このCクラスの商品をカットすると、関連する商品の売上が下がる可能性もある。そのような商品を「見せ筋」商品などと言っている。例えば、松・竹・梅の商品(お弁当)があって、竹の商品を売っていきたいとき、松や梅から誘導させるのである。竹の商品が498円、松は698円、梅は298円。人は買い物をするときに比較して買う傾向があるので、自分で選択し、納得して498円の竹を選択する訳である。もっともこのような選択基準は価格だけではない。以前、アイスクリームの卸さんに聞いた話だが、色々なアイスクリームの味(フレーバー)があるものの、一番売れるのはバニラ系だそうだ。それでは、アイスクリームケースにバニラ味ばかり詰め込んだら効果的かというとそうではない。チョコレート味があって、ストロベリー味があって、チョコミント味もあって、そういうアイスクリームケースが、トータルでは一番売り上げが良いのだそうだ。「売れ筋」商品ばかり残してしまうと、選択がつまらなくなるからということらしい。「見せ筋」商品なども効果的に使用して、ワクワクする選択にすることが大切なのだとか。ABC分析の結果、次のアクションを考える場合には、そういった関連性も考察するべきなのである。
以上
※参考資料:
「販売士ハンドブック(応用編)」
② マーチャンダイジング
第1章 マーチャンダイジングの戦略的展開
第6章 商品管理政策の戦略的展開