販売士

中小企業の戦略展開や生産性向上のツール-バランス・スコアカード(BSC)の活用

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中小企業診断士 塩見之郎

 2019年度版中小企業白書によれば、我が国経済は緩やかな回復基調にあり、中小企業の景況も改善傾向にあります。しかし、人口減少、デジタル化、グローバル化といった経済・社会構造の変化の中で、中小企業は、自身の存在意義が問われています。構造変化に対応した行動変容(デジタル化への対応、 オープン・イノベーション、インバウンド需要の獲得等)に挑戦していくことが重要です。このような状況において、中小企業が自己変革を行うためにはビジョンをしっかりと持ち、目指すべき方向性を明確に行動していくことが必要です。このようなビジョンに対する戦略をマネジメントするツールとしてバランス・スコアカード(以下BSC)というものがあります。BSCは、ハーバード大学教授のロバート・キャプランと、コンサルタントのデビット・ノートンによって開発されました。

 BSCは、①財務の視点、②顧客の視点、③プロセスの視点、④人材と変革の4つの視点により、戦略、目標、評価指標、施策を生成していきます。どのように、財務的に成功し、顧客に満足してもらい、それを業務プロセスとして成し得るか、そして社内でこれらを達成できる能力を育成・維持していくのかを実践していくシナリオ(物語)です。(図表1)

図表1 バランス・スコアカードの4つの視点

出典:Robert S.Kaplan and David P.Norton,`Using the Balanced Scorecard as Strategic Management System `Harvard Business Review(January-February 1996),p.76

各々の視点との関係を明確にして、このシナリオをわかり易く、導き描いた地図を戦略マップと言います。(図表2)BSCを導入するには、その企業の理念、価値観、行動指針、ビジョン(目標)、戦略(方針)が、明確になっていることが重要です。そして、これらをどのように成功させるのか、4つの視点で論理的に組み立てていくのです。

図表2 戦略マップの基本的構造

 BSC導入の効用には、全体最適を鑑みた組織と個人の役割の明確化、日常業務と戦略の整合等の戦略実現への動機付け、実行した結果の可視化によるモニタリングと是正活動、社内外のコミュニケーションの円滑化等が考えられます。結果として、新商品の開発、生産性の向上、顧客満足の向上、収益拡大となり、自己変革を実現するのです。
 これらの成果は大企業より、むしろ中小企業の方が実現し易いと考えられます。なぜなら組織がトップからボトムまで迅速に動け、目標や価値観を共有するコミュニケーション・ルートが短いからです。
ある中小企業は、新規事業プランにBSCを活用することで、大企業から資金を調達し、ジョイントで新会社を設立し業績をあげています。また、IoT・AIを活用した生産性向上の取組にBSCを活用しています。個人や組織の生産性の目標値を明確にし、その実現に必要な人材や能力の育成策と結びつけ、社員がその因果関係を理解、納得(腑に落ちる)することにより、その取組実現のスピードを上げています。
 今後、機動力のある中小企業が、BSCを活用することで戦略をしっかりと展開し、活力のある事業推進よる構造的変革が実現できることを願っています。
販売士の皆様は、BSCを経営管理の管理ツールとして活用し、自社の成長に貢献し、自らの経営管理能力も育んでいただきたいと思っています。まずは試みてください。

 以上

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