販売士

お客さまを選ぶことで、継続的な繁盛店になる

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城 裕昭(じょう ひろあき)
日本販売士協会登録講師、1級販売士、中小企業診断士

老舗フルーツショップA店

 ここは、首都圏近郊のJR主要駅。駅前のバスターミナルから真っ直ぐにモダンな商店会が延びている。道に沿って5分ほど歩くと、フルーツショップA店が在る。ここは1日の乗車人員が約10万人いる巨大駅で、駅ナカには高級スーパーが出店しており、商店会にある食品スーパーではミカンやブドウをエブリデイ・ロープライス(EDLP)で販売している。そのような環境にもかかわらず、A店は平日・休日を問わずお客さまの絶えない、このエリア一番の繁盛店である。「果実の目利きスペシャリストが、産地と市場から毎日厳選された果実を仕入れお届けする」のが店のモットー。この地で創業して約60年の老舗である。

 決して大きな売り場ではない20坪ほどの店舗だが、店の造りは洒落ている。大きなガラス窓越しに、外からは色とりどりの季節のフルーツが積まれているのが見て取れ、この商店会を通る人々は何気なく覗いてしまう。真っ赤なあまおう、イエローグリーンのマスカット・アレキサンドリア、鮮やかなオレンジ色のせとかなど、カラフルでフルーティな香りが、少し幸せな気分にしてくれる。店に入ると中心には大きなアイランド型の陳列台があり、珍しいフルーツの数々が手書きの商品説明メッセージとともに、丁度良いボリューム感でディスプレイされている。店に入り、これはあまり馴染みのない名前のフルーツだなと見ていると、店の方がササっと寄ってきて、「これ珍しいでしょう。何と何を掛け合わせた新しい品種で、糖度はどのくらい、生産者さんの努力で10年以上研究開発してやっとできた、今お薦めの品ですよ。」と愛想よく説明してくれる。その上、はいどうぞ、と試食までさせてくれる。プラスチックの容器の中にあらかじめ切り分けられた試食品とは違い、その場で商品の包装を開けて、粒をもいで渡されるのも少しワクワク感があって嬉しい。こういった品ぞろえ、演出、説明販売が、エリア一番店を作っているのだと、販売士のひとりとしては、感心してしまう。

 現在のA店は高級フルーツ店。都心の超高級店とは趣が少し異なる、言わば普段使いの高級フルーツ店である。創業当初は、「毎日の食卓に果実が並ぶことがなかった時代に果実のおいしさを多くの人に味わってもらいたい、生活に潤いをもってもらいたい、そんな願いをこめて果実専門店を始めた」ということである。これが高級フルーツ路線に変わったのは二十年ほど前、近くにチェーンスーパーが出店し、果物の安売り販売という価格競争に巻き込まれてしまったからだと、社長は言う。チェーン店の薄利多売の影響を受け、近隣の果実専門店は次々に撤退していった。ここでA店が考えたのは、安売りしだすときりがないうえ、店の体力が奪われてしまうということ。また、生産者が丹精込めて育てた美味しいフルーツは、適正な価格でお客さまに提供しなければ申し訳ない。そのようなことが切欠となり、お店がお客さまを選ぶこと(絞り込むこと)を決断したのである。つまり、安売りしたときだけ買っていただくお客さま向けではなく、魅力的なフルーツに対して理解のあるお客さま向けの店づくりに変更したのである。

STP分析によって、立ち位置・戦略を確認する

 ノースウェスタン大学ケロッグ大学院教授、フィリップ・コトラー(Philip Kotler)博士は、現代マーケティング研究の一人者である。マーケティングの本質は売れる仕組みを創ることだが、コトラー博士は、STPこそマーケティング理論の中核だと言っている。販売士の方にはお馴染みだが、STPとは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targetting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字を採った略称であり、これらの一連の流れをまとめた呼称でもある。「あらゆる顧客を狙った商品は、誰からも必要とされない」と言う言葉が示すように、STPとは目標を達成する上で、どの市場を狙い、どういった立ち位置で市場にアピールするか、最も効果的な手段を決定するプロセスである。市場をどう分けるか、自店の標的市場をどこに定めるか、お客さまや市場に認識してもらう立ち位置はどこか、これらをこの順に考えることが重要である。このプロセスは、店全体の生産性向上にも役立っている。A店の場合では、同じフルーツショップでも、進物用の高級フルーツが中心の店舗、家族で楽しんだり親しい友人へ贈るフルーツが中心の店舗、価格優先でフルーツを販売する店舗、など幾つかのセグメントが考えられる。その中からどれを選択するのか、想定するお客さまはどういう人なのか、どうすれば彼ら・彼女らが当店を魅力的に感じ選んでくれるようになるのか、といったことまで考えて、現在の高級品志向にたどり着いたと考えられる。

 では、店舗での販売活動よりもマーケティング分析のほうが重要視されるべきなのだろうか。勿論、そうではない。最終的に商品・サービスをお客さまにお買い上げいただく決め手は「顧客接点」であり、接客を中心とした販売活動に他ならない。同じ商品でも最高の接客は付加価値をアップさせ、お客さまの納得度や満足度を高めることが出来るからである。

顧客接点(接客活動)の重要性

 前述のSTP分析だが、最近ではR-STP分析と言われることも増えてきた。Rとは、調査(Research)のこと。市場の環境分析がしっかり出来ていないとSTPを考えていく上で、誤った方向に進んでしまうからである。顧客・競合・内部などを調査分析していく上でも、お客さまからの声や生の反応は一番の情報であり、重要事項と言える。A店は、価格よりもフルーツの本当の美味しさを味わいたいお客さま、その体験を大切な方にお届けしたいお客さまにターゲットを絞り込み、品ぞろえや接客方法を変化させてきた。それが最大の成功要因と言えるだろう。

以上

※参考資料:
 「販売士ハンドブック(応用編)」

① 小売業の類型 第4章 店舗別小売業の運営特性
② マーチャンダイジング 第1章 マーチャンダイジングの戦略的展開
③ マーケティング 第8章 業態開発の手順と実践
「コトラーの戦略的マーケティング」 コトラー著、2000年

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