中小企業診断士 籔田安之
知財は企業を外部から知る手掛かりの一つ、知財情報はもっと活用できると考えます。見えるのは企業だけではなく、市場やその背景となる社会が見えてきます。企業の生産性を向上させるために、まずは『市場を知ること』が不可欠と考えます。
【市場を知る】
新たな技術開発を行う際、着手する前に目標とする市場の状況を知らなくてはなりません。限られた経営資源を無駄に使わないためにも事前の準備が大切です。知財調査をマーケティング手法の一つにすべきと考えます。特許そのものを精査するのではなく、知財の分布を俯瞰して見ることで市場が見えてきます。
知財を検索し、自社と同一のものが見つからなければ、ひとまず安心することができます。誰よりも早く世の中にない創造活動ができたことに喜びを感じましょう。その直後に、似ている知財がないかを調べます。大抵の場合は何らかの類似知財が見つかるはずです。素材、構造、機能、用途など何らかの項目では一致したものがあるはずです。定義を広くすれば類似は増え、狭くすれば減ります。知財の量によって、競争の程度を知ることができます。
最も幸せなのは、似ている特許が見つかった上で自社が創造した技術が優れているケース。他社ができなかった創造を自社が成し遂げた結果です。判断に困るのは類似知財が少なすぎるケース。誰もが注目していない分野での単独開発。漁場に釣り人が多すぎるのも困りますが、全くいなくても不安になります。技術開発はできても商品開発ができない、全く売れない、役に立たない知財なのかもしれません。
特許情報の中で、どんな権利が、どんな言葉で定義されているのか、『請求項』は文書の心臓部であり専門家が能力を発揮するフィールドです。流儀を知らないと読めない、古文や俳句に近い世界です。請求項を読み解くことは専門家に。でも一般の人でも読めるパートがあります。請求項の後に続く『産業上の利用分野、従来技術、解決すべき課題、課題を解決するための手段』が書かれています。ここは普通の日本語。賢人はどのように解決しようとしているのか、無料で知ることができます。
【程度を計る】
企業が費用と時間と労力をかけた成果である知財、それらは全てが同じ価値ではありません。『うちの会社には特許がある』とコメントに出会ったならば、その中身をしっかり見る必要があります。『強い特許』なのか、否か。どのくらい優れた知財なのか。知財の存在そのものに盲目的にならず、もっと中身に注目するべきと考えます。
商品のパンフレットに『特許出願中』と掲示しているケース。本当に価値あるものかどうか、経過や内容を見てみなくてはなんとも言えません。回避できる特許か、否か、すぐに専門家に相談してみましょう。
技術開発の成果である発明の全てが特許になれるわけではありません。発明が特許(特別に許されるもの)となる為には5つの条件があり、これを特許要件と言います。
・新しいものであること(新規性):既にあるものを真似してはいけません
・容易に考え出すことができないこと(進歩性):思いつきではだめです
・先に出願されていないこと(先願性):他の人の前に出すこと、早い者勝ちです。
・産業上利用できるものであること(利用可能性):産業に役に立つものに限ります。
・公序良俗に反するものでないこと(公益性):社会秩序を乱すものはだめです。
これだけの要件を満たすには、どうしても説明は長くなります。請求項は多くなります。
条件を加えると、得られる権利は小さくなります。短い文で簡潔に成立した特許は、より広い権利を有していると言えます。
特許権と意匠権には20年、実用新案権には10年の寿命があります。(日本の意匠権は25年に変わります)。これは日本だけの話ではありません。秘密を公開した代償としての利益、期限があるのは新たな開発を促し、社会を発展させる為です。もし期限がなければ、古い企業が利益を独占し続け、新たな創造が生まれません。
寿命があるので旬もあります。知財の出願時期、権利化期日はすぐにわかります。出願した特許は1年半経つと公開され、自社の秘密が世の中に知れ渡ります。いつが旬なのかは技術分野によって異なります。ワインのように、早く旬が来る知財もあれば時間をかけてじっくりと熟成していく知財もあります。旬を知る事で、知財の価値を計っていきます。
(文責:籔田安之)