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自社の知財

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中小企業診断士  籔田安之

 知財はもっと身近で役に立つ、知財は他社を知る便利なツールという事を書いてきました。会社組織図、商品ラインナップ、財務諸表は、企業の実態を知る手掛かりの一つです。これらのヒト、モノ、カネの情報は、他社だけでなく自社を把握するためにも有効で、通常は定期的に確認し、見直しています。知財も同じような存在と考えます。

 自社の知財を見つめる。知財を棚卸しする。既に特許や商標など何らかの知的財産権を取得している会社ならば、それらのリストをつくることを想起します。一覧表をつくり俯瞰する。リストには、権利の概要、(どんな内容か)、相互の関係(どんな役割か)、取得の背景(どうして必要か)、期限の到来(いつまで有効か)が含まれてほしいです。特許を出願、商標を取得して間もない頃は鮮明な記憶も、時間が過ぎて熱が冷め、その存在すら忘れてしまうなんて笑い話にもなりません。常に目をかけること。

 つくったリストは定期的に見直します。財務諸表は最低でも年1回、税務申告に合わせて見る動機があります。お金は会社の血液で、その流れを日々チェックするのは経営者として当たり前のことです。見直しのやり方、頻度と精度は管理スタイルによって異なります。世の中の変化のスピードは上がる中、周囲をよく見渡して常に変化に敏感であるべきです。商品や組織も経営に直結するのでよく見直されます。それに対して知財はどうでしょう。

 お金が会社の血液ならば、知財は筋肉みたいなものではないでしょうか。鍛錬すれば強くなり、怠ると役に立たないもの(脂肪)に変化する。強い筋肉があれば大きな活動ができ、大きな活動は会社に大きな利益をもたらします。筋肉は使いながら強くなります。日常から意識しトレーニングする事が大切です。瞬発力がある筋肉、持久力がある筋肉、どの方向を目指すかは経営の方針次第。自社にとってベストの知財の鍛え方を考えてみて下さい。

 特許や商標、知的財産権に縁のない会社でも、知財を明文化する。知財を明らかにする事には大きな意義があります。『他社と同じ』で成長ができた昭和の時代とは違い『他社と違う』が大切な令和の時代。厳しい競争の中で生き残るには他社との差別化が不可欠です。他社と横並びの『模倣』ではなく、他社とは一線を画す『創造』が発展への基礎となります。

 自社の技術を説明する。自社の製品にどんな工夫やアイデアがあるのか、他社の製品と比べてどう違うのかを文章や口頭で伝えること。これらは日常によくあることです。優れた営業マンは自分の言葉で相手を説得し、注文を獲得します。相手に合わせてレベルを変えること。詳しい人には細部の構造を、そうでない人にはかみ砕いた機能を説明します。
 開発の現場では、自社の技術を異なる立場の人がそれぞれの言葉で解釈し議論を行っています。意見のぶつかり合いから新たなイノベーションや画期的な製品が生まれて来ると思います。これらの異なる状況における自由な表現に、一定の枠組みをはめて比較し易いようにするものが知財であると考えます。

 知財は技術を定める手段とも言えます。自社が作っているモノを定義して、改めて確認する。工場内で行っている作業を手順として文書化して、要点がどこにあるかを皆で考える。自社の知財を考えるプロセスを通して、技術の優位性や製品の存在意義を学ぶことができます。『うちは何をする会社だったのか』素朴な疑問を解消してくれます。現状を把握した後、新たな知財を目標に掲げればチームを一つにまとめる助けとなります。

 知財は技術を伝える手段と言う事もできます。社内での共通認識を社外へのメッセージとして効果的に発信するのに有効な手段です。自社の優れた技術を公のデータベースに載せることで多くの人の目に触れます。入社を検討している学生も含まれています。単純な給料や地位ではなく、仕事のやりがいが就職先を決める世の中。技術開発にとって人材の獲得は最重要点。優れた知財がある会社には優れた人材が集まります。

 知財が難しい言葉の集合体になりがちなのは、財産である以上、定義をする必要があるからです。定義が曖昧な財産はもめ事がおこります。土地を財産とするためには境界が必要な様に、技術を言葉で定義し、境界をつくり、唯一のものにします。

 自社の知財を定め、伝える。この難題に対しどう取り組むのか、次に続けていきます。

(文責:籔田安之)

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