簿記

書店の真の価値と会計期間 12

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石島公認会計士事務所
公認会計士・税理士
石島 慎二郎

「はぁ、暇だなぁ~」

書店内、レンは一人頬杖をついている。

あれからしばらくして、サワムラ書店は閑古鳥が鳴くようになった。

ブームが去ったのだろう、あれだけ賑わっていたのがウソのように、写真を撮りに来る人もいない。

「もう今日は閉店にして気分転換でもするか」

そういってレンは店を閉めて街にくり出した。

商店街をぶらついていると、なじみの顔を見つけた。

「あれ、ヤマモトさん?ヤマモトさんじゃないですか!最近お店にいらっしゃいませんね」

レンが親しげに声をかけるも、ヤマモトはきまずそうな顔をしている。

「おう、サワムラ孫か。久しぶりだな。いやな、最近欲しい本がなくてな……。」

「そんな、前は欲しい本がなくても来てくれていたじゃないですか。

また前みたいに来てくださいよ、うち暇ですし。」

歯切れの悪いヤマモトに、レンは自虐的に明るく言った。

ヤマモトは少し思慮深い顔をした後、静かに口を開いた。

「サワムラ孫よ、正直言ってだな、今の書店は好きじゃねぇんだ。

なんというか……今までは欲しくなくても興味引かれる本があって足を運ぶだけで心が躍る、

居心地のいい場所だった。それが今はな……俺はああいうのが好きじゃねぇんだよ、悪いな。」

書店に戻ったレンは呆然としていた。

常連のヤマモトは、ずっと書店に来てくれるものだと思っていた。

それが、まさかあんなことを思っていたなんて―――。

レンは改めて今の書店内を見回した。

おしゃれなテーブル、洋風な本が詰められた本棚が並び、

なんとも独特な雰囲気を醸し出している。

これはこれで他にはない特徴ある本屋とはいえる。

おじいちゃんの時代はどうだっただろう―――

レンは目をとじて考えてみた。

「……そうだ、おじいちゃんは、常連さんが興味ある本をそっと揃えていた。

それでお客さんとよく話をして、常連が増えて、またその話をもとに本を揃えていたっけ……。」

レンはハッとして、再度書店を飛び出した。そしてまた商店街に戻り、

行き交う地元の人々に、どんな本に興味があるのか聞き込みを開始するのであった。


「本屋の進むべき道は見えてきた。簿記の方もしっかりしないと。」

夜、書店奥の居間にて、レンはタブレットとにらめっこをしている。

ケンカした手前もあるが、シブサワに頼るばかりでなく自分で調べることにしたのだ。

「シブサワさんが決算書は会社の状況を映す鏡だと言っていたっけ。

決算書の作り方は…と。なになに、『会計期間』だって?」

レンは眉間にしわをつくってタブレットを覗き込んだ。

どうやら、決算書で会社の状況を知るのは重要だが、

会社の状況というのは1年単位の『会計期間』でみるのが基本らしい。

「なるほど、1年ごとに会社の状況がどうなっているか見ていくわけか」

レンはタブレットで画面をスクロールしながら一人うなずいた。

「1年ごとの状況を正確に把握するために『決算整理』を行う?また難しそうだな……。」

読めば、第1期の収益や費用は第1期の分、第2期の分は第2期に数字を入れるらしい。

解説には例が載っていた。

「ふぅむ、これは難しいが……とにかく1年の会計期間という区切りを大事にする、っていうことか」

「さよう!」というシブサワの声が聞こえた気がしてハッとする。

思わず簿記の本を開きたくなるが、甘えてはダメだ、レンはそう自分に言い聞かせた。

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