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使えるデータ活用 第8回 DX(経済のデジタル化)の影響①

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中小企業診断士 福田 美詠子

3 DXの影響

(1)経営資源とデータの3大機能

◆経営資源のバランスが、人手不足とデータ増大により大きく変化

 日本でデータ活用が遅れ気味である理由を探ってきたところ、デジタル化をあまり関わりたくない変化として、どこか他人事として捕らえられている状況が浮かび上がってきました。しかし、DX(経済のデジタル化)は第4次産業革命ともいわれ、万人に大きな影響を与える大変化だと思います。問題点を掴むため、経営の4つの資源を考えてみましょう。
 経営資源として、ヒト・モノ・カネ・情報が必要とされます。日本では、少子高齢化で、ヒトは大きく減っていきます。モノ・カネは、国内市場の縮小により減少の可能性がありますが、議論のために経済規模を維持して横ばいと仮定してみます。対して情報は、IT発展・データ化によって爆発的に増加中でした。
 カネとのバランスをみると、人手はカネに対して少なくなるので高価に、IT・データは多くなるので廉価になります。
 人手不足をITや機械・ロボット、そしてデータによる生産性向上で補っていくことは不可避です*14 。業務をデジタル化するとそれだけで生産性は10倍になる* 15、という説がありますが、他社が先んじて生産性を向上させた場合、QCD*16 のすべてでヒトが機械と競争させられている状況になり、大変不利になってきます。昭和はヒトが潤沢でしたから人海戦術を採ることで対抗できましたが、令和の現代、ヒト資源が大きく減って高騰していくことを肝に銘じなくてはなりません。組織をデータ活用できるように変革していく必要性もここにあり、人間が行なう業務もITで自動化できる単純作業からは開放して、付加価値の高い業務へと変えていくことになります。

◆データの3大機能は、認識保存・価値再生の核・離散的操作

 さらに問題は、経済のデジタル化が、「価値」に及ぼす影響だと思います。
価値といえば、通貨の3大機能、価値保存・価値尺度・交換手段が思い起こされます。ひるがえって、データの3大機能を考えてみました。(a)認識保存 (b)価値再現の核 (c)離散的操作 だと思います。

(a)認識保存:構成要素やその関係性、変化経緯などを認識し、データ化して保存する機能です。調理なら、実際に食される一品ではなく、レシピや写真のほうです。無形の情報は、言葉から文字や写真・音声にでき、さらにデータ化すると1・0に還元されて同列に保存することができます。

(b)価値再現の核:保存されたデータを元に、同様か類似の物事を再現できる機能。調理なら素材や道具などを揃えれば、レシピや写真をもとに以前のような一品を再現できます。文字や絵では保存できる現実に限界がありますが、データ化すると言語・音声・画像等を複合的に扱えるので、バーチャルリアリティのように再現性が飛躍的に上がります。

(c)離散的操作:人間の感覚では連続的に見える世界を、原子・分子と同じような離散的なデータにすることで、複製・分解・編集や伝送といった各種操作が簡単になります。また、メタデータを付加して検索ができます。

◆データの3大機能が、従来の「価値」を変化させる

 さて、カネの機能の価値保存ですが、価値の相当な部分はヒトの労働で生産されます。ヒトの労働は個々人の経験値としてスキル向上につながるとはいえ、行為そのものは1回ごとに消えてしまいます。そのため、カネとして価値を保存する必要があります。
 対して、データの機能(b)価値再現の核 に注目すると、素材・道具は要るとしても、繰返し同じことを再現できることになります。最初は人手よりも遥かに業務品質が低くても、(a)認識保存を繰り返せば、忘れることなく多方面からデータが蓄積されていきますので、(c)離散的操作 により、劣る部分を編集して改善していけばよいのです。仕組にしてしまえば、遠隔地であろうが休日夜間であろうが正確に働いて、価値を再現する核になります。
 このように価値の再現が簡単にできるようになると、定型的繰返しの労働で価値を保存する必要性が薄くなってくるはずです。いいかえると、定型的繰返し労働の費用低下により、今までよりモノの製造原価が下がるでしょう。モノに対するカネは減る、つまり、少ないカネでいいモノが手に入るようになっていくと考えられます。
 経済のデジタル化が進むと、価値も変化して、カネの示す価値尺度とモノとのバランスが動く可能性があります。


* 14 伝統工芸品など、人手を強みとする商品は例外ですが、小規模・高価となります。
* 15 スライウォツキー『ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか』ダイヤモンド社、2002年
* 16 Q:Quality品質、C:Cost費用、D:Delivery納期

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