石島公認会計士事務所
公認会計士・税理士
石島 慎二郎
「それで、今どんな感じじゃ?あー、サワムラ……」
「レンです。」
ひとまず自己紹介する。
「そうか、レンよ。会社の経営状態はどうじゃ?」
シブサワに唐突に聞かれ、困ってしまう。
「経営状態、ですか……正直、さっぱりわかりません。
とりあえずおじいちゃんの代わりをしようと思って来ただけで……。」
「おまえさんなぁ、それでどうするつもりだったんじゃ?会社の今の状況を知らずして、
何とする?何が良くて、何が悪いのか。それを知らずして、どうするつもりなんじゃ。」
畳みかけるように言われるが、何も言い返せない。
「いや、その、とにかくこの本屋を何とかしたいと思っただけなので……。」
「その気概や良し。だがなレンよ、先にも言ったが現状を知らずして改善は望めん。
まずは会社の決算書を見るがよい。」
「決算書、ですか?」
そういえば、先ほど書類を整理している中で、そんなものを見た気がする。
そう思い書類の山をかき回してみると、決算書類在中と朱書きされた封筒が見つかった。
「シブサワさん、これですか?」
「うむ、中を見てみるが良い。」
<決算書の例>
「あの~自分にはさっぱりで……。」
「レンよ、これが決算書、会社の状況を映す鏡じゃ。
これがわからないということは、会社の状況が見えていないということじゃ。
おまえさんは決算書を読めるようにならねばならん。
よいか、決算書は取引を帳簿に記録することで生み出される。
つまり、帳簿の記録のやり方、
『簿記』がわからねば、決算書がわからぬ。
決算書を知れ、そのためには簿記を知れ、じゃ。」
「はい……。」
まだぼんやりとしているが、シブサワの言葉には真実の重みがある気がした。
「だが今はわからなくて当然。ひとまずは、決算書は損益計算書と貸借対照表の2つと知れ。
損益計算書は、どれだけ会社がもうかっているかを示す。
損益計算書の左下の『当期純利益』とあるな?これが会社のもうけじゃ。
つまり、じいさんの本屋はもうけがあるのじゃよ。」
もうかっている――それを聞いたレンは目の前が明るくなった気がした。
「一方で、貸借対照表は会社の財政状態を表すのじゃが――それはまた後にしようか。
ここで大事なのは、損益計算書と貸借対照表の一番下の『合計』部分じゃ。」
「損益計算書は合計が右も左も2,500。貸借対照表は合計が右も左も205。
たまたまぴったり合っていますね。」
「これはたまたまではない。損益計算書も貸借対照表も、必ず左右の合計が一致する。
一致していなければどこかに間違いがあるということよ。」
「なぜ必ず一致すると言い切れるのです?ずれることだってありそうじゃないですか。」
「それが簿記のミソなのじゃよ、レン。簿記は必ず右と左に記録するのだ。」
簿記のポイントは右と左が必ず一致すること――これはいったいどういうことなのか。
レンはシブサワの話に次第に引き込まれていった。